自主制作タブロイド版、TRAVELLING発刊
前に少しだけ触れた「冬の欧州、4ヶ国の旅の写真の行方」ですが、この度、自身初の試みとしてタブロイド版を自主企画・制作しまして、蔵庭にお越しくださったみなさまに配布させていただきたいと思っています。
全16ページの大判で好きな写真を大きく載せ、旅で感じたこと、見たことを考察し、文章をのせました。もともとやってみたかったことでもあり、よい機会だと思った次第です。誰かに伝えてみたい!という感情が沸き起こったんですね。
タイトルは『TRAVELLING』。結構あっさり決めました。余談ですが、アメリカ英語は「TRAVELING』と表記し、イギリス英語は「TRAVELLING」とLを2つ綴ると調べて知りました。(欧州なので英国英語を優先。)
表紙はブリュッセルのデモで撮った少女たち。中にも少女グループを全面に載せてるカットがありますが、まぶしいほど少女たちのパワーを感じたのをよくおぼえています。デモの真っ只中だったこともありますが、シャッターを切る手がちょっと震えました。
スペイン・バルセロナの観光業や市場、カタルーニャの独立問題、南仏の散策や友人家族との再会、ベルギーのビールとワッフルとチョコレートの旅、そしてフィンランドの教育やサウナカルチャー。好きなように綴っています。
今週木曜日からカフェに設置します。無料です。興味ある方はぜひ手にとってみてください。
本誌に書いた「Introduction」を掲載します。
これまで東京以外で暮らしたことがなかった僕が島根に移住することを決めたのは2013年のことだった。フリーランス活動を本格化したタイミングで、夫婦でこの先の生き方を模索していたときだ。
「世界はこんなに広いのになぜ僕は東京にしかいないんだろう?」という思いがアタマの中で常にグルグルしていた。今までの生活スタイルを大きくシフトし、仕事も住む場所も何もかも再起動させ、新しい環境に身を置きたかった。今思えば人生のターニングポイントがやってきたのだろう。「新しい自分」になりたかったのだ。
2015年の夏に『蔵庭』というカフェをオープンし、自分たちの拠点を作った。ここは過疎化著しい中山間地域だが、周りを気にすることもなく、誰かに管理されることもない自由を手に入れたことが何よりだ。毎日がエキサイティングで、移住5年目を迎えた今も変わらずそう思えていることに我ながら驚く。身を置く環境次第で人は大きく変わる。
「山陰の冬は厳しく、太陽にあたらないと体調がすぐれない」「未来の自分たちへの投資だ」というもっともらしい理由をつけて、カフェは冬季休業にし、家族で「あたたかい国に行く」ことをここ数年続けている。タイ、インド、マレーシアを廻り、豪州はバイロンベイに滞在しながら自分たちだけの時間を過ごすことを大切にしている。「この時間のために頑張ってはたらく」と妻は毎年言うけれど、僕も全く一緒だ。
知らない国や人や文化に触れることが心身を活性化させ、自らの糧になることは言うまでもない。せっかくなので体験したことや得た経験を少しでも蔵庭に還元したいと思い、メニューにも反映している。
今シーズンはスペイン、南フランス、ベルギー、フィンランドと欧州の4ヶ国を廻ってきた。食や観光スポット巡りはもちろんだが、それ以外に何を見て、何を感じることができるのかも旅の醍醐味だ。
本誌は僕がそこで見て感じたことをまとめ、少しでも多くの人に伝えてみたいという思いからタブロイド版を自主制作しようと決めた自身初の試みである。全ての写真を自分で撮り、文章を書き、レイアウトデザインまで一人で行なった。サイズや紙質にもこだわり、印刷会社にも足を運んだ。写真は多く載せるのではなく、大きく載せることを意図した。それは僕が「こんなタブロイド版があったら手に取りたい」と思えるようなものにしたかったからだ。
カメラやコンピューターの性能が高くなったおかげでたった一人でセルフパブリッシングができる素晴らしい時代に僕らは今生きている。ありとあらゆることが好きに、自由に、安く、できるようになったこの時代、「やりたくてもできない理由」はもはやなくなった。
改めて言うが、世界は広い。見たことのない景色や新しい出会いは自分から求めていかなければ手に入れることはできない。インターネットでわかった気になるのはちょっと違う。現実世界で足を運んで遠くまで行ってみる。
僕らは本来、楽しく過ごすためにこの世に生きていることを忘れてはならない。多くの制限があるように思うのはきっとただの思い込みなのだから。
戸田耕一郎