海士町でいただいた幸せな小松菜

 

11月のカレンダーを更新しました。
カフェは今月も少しだけイベント出展を予定しています。(営業カレンダーは都合により変更する場合があります。ご了承ください。)

さて、コロナ禍6月の営業再開からはメニューを一品にしぼってカフェ営業を進めていますが、うちとしてはやっぱり玄米プレートだよねってことで続けている定番メニューです。毎回仕入れによっていろんな野菜をデリにし、新しい生産者さんと出会う機会はここ島根でも少なくありません。

先週のプレートには『隠岐地方・海士町の家庭菜園で作られた小松菜』を使わせていただきました。

なぜ海士町?ここからは蔵庭とはあまり関係ないかもしれない僕個人の仕事の話です。先日、はじめての隠岐、海士町に行ってきました。この町に移住された、とあるご家族の映像撮影のトリップでした。

僕にとって海士町の印象は、振り返れば6年前の我が家の移住当時から「教育魅力化の評価が全国的に注目されている場所」「隠岐島前(どうぜん)高校がサバイヴするために考えられた『島留学』がすごいことになっている」といった教育の町としてのイメージでした。成果を出していることもあって当時もかなりニュースになっていましたよね。

2009年にはじまった「島前高校魅力化プロジェクト」は島の存続をかけていたと言っても過言でないわけです。それまで入学者数が30人を切っていたにも関わらず、2013年には59人になり、その後も入学者は増え、成長を続けていきます。その後これを見た島根県は県外から県内の公立高校に生徒を呼び込む「しまね留学」をスタートさせるに至ります。

一体なにが起きたのか?という話は検索すればいくらでも情報が出てくるので割愛しますが、ひとつ言えることは、近年様々な社会変化を迎える機会がある中で、私たちの価値観や暮らし、働き方、大局的には生き方そのものが多種多様になっていき、例えば子どもを持つ親もこれまでの固定観念から脱却し、幅広い選択肢を考えるようになったことに因果関係があるように感じます。

そこにこの一連の「教育魅力化」「島留学」という地道で、しかし未来あるプロジェクトが合致したのかな、と想像しました。いずれにしてもカタチ(成果)を出している、という意味で注目されている町であることは僕が今更言うことでもありません。小1のひとり息子を持つ親としても「教育が町に拓けていくことで変わる地域社会」に大きな興味関心があります。

今回撮影対象とさせていただいたご家族にもこのような話をお聞きしないわけにはいきませんが、僕が同じように興味を唆られるのは「島暮らし・愛する家族で過ごす時間・自分と家族の幸福と未来」といったカテゴリーです。

自主制作版タブロイド『TRAVELLING -EU編- 』で触れましたが、人はどこかで人生の転機のようなタイミングが訪れるように思います。自分と向き合い、意識をそこへ向けた上で心の声に従うならば自身のこれからの人生や幸福について考えるような。

僕はそれを「自分のしたい暮らしって何だ?」というフレーズのもと、誰かと話したり、論じたりするのが好きなのですが、海士町という場所で、自分たち(家族)で仕事を作り、愛する家族とともに好きなように時間を過ごし、自分たちが心地よいと思える環境を自分たちでクリエイトしていく島のライフスタイル。それがご本人たちにとってどんな風なものなのかをぜひお聞きしたい、そんな気持ちでずっとカメラを前にチャンスを狙っているような3日間でした。

 

 

ご主人は教育分野のプロフェッショナルで、そこを切り口に町のあり方やコミュニケーションなど大きな視点でプロデュースしていくような、そんな仕事スタイルの方で、いくつものプロジェクトを抱えています。

奥様は『あまのーら』という玄米グラノーラをご自身で作って販売しています。他にもスコーンやドーナツなど焼き菓子もつくっていらっしゃいます。オーガニックなものや良質な食材を使い、不自然な甘味料や調味料などは使わず、限りなく天然なものを使用し、商品コンセプトは蔵庭もとても近いところを感じますが、どれもやさしい味で、作り手の人柄を感じさせてくれるようなものです。

共感できるのはやっていることすべて無理をするようなことをせず、自分のリズムを大切にしていること。等身大の自分であること。そして周囲に対して誠実であろうとする姿勢でした。こういうことってその人が今まで生きてきた人生そのものというか、経験から来るものなんだろうなと思うんです。ただやろうとしてそうやっているのではないような。だから行動や言動に重みが出る。誰かに教えてもらうことでもないんですよね。

ご家族でやっている家庭菜園を見学させてもらうことができました。自分たちで食べるものを自分たちで作る、土に触れる島暮らし。日々の物物交換が暮らしの中で大切なコミュニケーションになることをご主人は語ってくれました。都市部で過ごし、何かを感じてこの島に移住したからこそ、わかることがあるのかも知れません。

長い長い前置きでしたが、この家庭菜園で作った「小松菜」をたくさんいただいて蔵庭に帰って来ました。すぐ妻に「海士町でもらった小松菜をぜひ明日の玄米プレートに使って!」とオーダーし、「ピーマンと切り干し大根と海士町の小松菜のナムル」としてお客さんに届いていきます。

「ないものはない」を町のスローガンに掲げる、はじめての海士町の旅は仕事でもあり、私事でもあるようなとても印象深いものになりました。

僕の仕事は地域ブランディングや観光産業、インバウンドといったテーマのコンテンツづくりが多くを占めていますが、その中でも「移住・定住、UIターン」に関わることは少なくありません。移住や定住についての情報発信は島根県は積極的です。移住したいと思ってもらえるような作品づくりや情報のリーチは簡単なことではありませんが、その一方で人はどこで自身の変化に気づくかはわかりません。まるでスターのような人から影響を受けることもあるかも知れませんし、誰かの些細なふとした一言に影響を受ける瞬間だってきっとあると思います。

その一瞬の気付きを創出するための制作活動をやっているようなところも僕にはありますが、もっというと「自分はこれからどんな人生を送りたいんだろう?」という自身への問いかけそのものを持ち続けることこそ大切で、そしてこれからの時代はそういう人が増えていくような気がしてなりません。かつて911やリーマンショックがそうだったように、311を経て、20年代はコロナではじまった。僕はどこか社会への必然を感じるんです。誰がどう見ても社会は変わってきている。

家族で過ごす時間を至福と思える環境という意味では、海士町でこのご家族から聞けたお話は僕にもスッと入ってきましたし、こういうストーリーを移住を考えたい、あるいは潜在的に考えているような方達に精一杯届けたいと思って今僕はこの仕事をしています。久しぶりに「ああ、これを誰かに伝えたい」と思ったんですよね。

そんな思いのこもった”小松菜”でした。食物には作り手の生命が宿ると僕は信じています。だから僕は「幸せな小松菜」と小さい声で言いたいわけです。

映像の撮れ高は上上です。晴れて情報がオープンになるときに、このご家族の表情や生の声を、蔵庭日記を通じてお届けしたいと思っています。