蔵庭年内クローズと紬麦移転のお知らせ
新年あけましておめでとうございます。
蔵庭の戸田耕一郎です。
蔵庭から大切なお知らせをさせていただきます。
ベーカリー紬麦は2025年3月末日、カフェ蔵庭は2025年11月末日をもちましてクローズさせていただくことに致しました。
2015年7月の開業から丸10年、たくさんのお客さまにご来店いただきました。みなさまのおかげでこれまでこの仕事を続けることができたということ、これはもう感謝してもしきれない程です。心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
30代後半、島根に移住したばかりの僕は自称「蔵庭プロデューサー」として意気揚々とオープンに向け人生の転換点を感じる日々に胸を躍らせ、その気持ちは今日に至るまで変わることなく持ち続けています。
「蔵庭プロデューサー」なんていう役割ははじめの数年で全く必要がなくなり、この場所は紬麦と蔵庭の店主たちそれぞれの人柄とその腕、そして長く一緒に働いてくださっているスタッフの方たちによってつくられていきました。
蔵庭・紬麦が好きとおっしゃってくださるみなさま、蔵庭・紬麦に興味関心を寄せてくださるみなさま、そしてこれまでお世話になったみなさまに、このような決断をした理由とこれから少し先の私たちのことについてお伝えさせてください。10年間という時間を蔵庭で過ごしてきた今、私たち自身のライフステージの変化とともに、前向きな気持ちでこのお知らせをリリースできることになにか完遂したような、清々しさに似たものを感じています。
その理由
理由をふたつお伝えします。
①紬麦の純子さんはパートナーの方がいらっしゃる松江に今年から営業拠点を移すことになります。早ければ夏〜秋頃を目処に松江での新店舗オープンに向けて準備を進めています。蔵庭での営業は2025年3月末までとなります。(それ以降の情報については紬麦インスタ等をご覧ください。)
②妻でもあり蔵庭シェフの望さんは、今春から6年生になる息子の中学進学(2026年度)に併せて長野県への教育移住を予定しています。少なくとも3年間は島根を離れることになります。ちなみに僕は会社としての島根での仕事が多く、離れる意思はないため基本島根拠点は変わりません。家族とはそれぞれの暮らしになりますが、行き来しながらより一層頑張っていこうと思っています。
この場所のこれから
当面は僕の制作オフィス(及び弊社所在地)として活用する予定です。今のところ新しい業態の店舗をやるとか、テナントを募集するとか、第三者にお貸しするとかそういったことは考えておりません。大家様との契約上、引き続き弊社で維持管理を行なっていきます。信頼関係のある方々とのポップアップイベントやレンタルスペース利用のようなことはあるかもしれません。
紬麦は移転、新しい場所へ
やるべきことをやりきった人には新たな風が吹きはじめる、というふうに僕は感じています。
紬麦の純子さん。初めにこのお話しを聞いた時、パートナーの方とのことはもちろんですが、仕事や生活の様々なことが次なるライフステージに移る機会が来たのだと感じました。 この10年間、雨の日も夏の猛暑日も、山陰の長く厳しい冬の間もスケジュールに穴を空けることなく営業を続け、紬麦を好きでいてくれる方々をゼロからつくってきた方です。
朝3時4時から仕事をすることはベーカリーならきっと当たり前のことなのでしょうけれど、10年間やり続けることが容易なことだとは僕は到底思えません。純子さんは本当にタフな女性。生きていくためにやっているからこそ、ゆるふわでアマいこと(?)など一切言わずきちんと稼ぐ。この軸がブレる姿は一度も見たことがありませんし、とても共感します。
営業2年目の冬のある日、来客が少ない日がありました。すぐに地元の学校等へ出張販売の依頼をかけ、店舗営業が終わってから車にパンを積み込んで販売しに行く姿をふと思い出します。人が来ないなら自分から売り場をつくりにいく。そういうことをひとりでどんどんやっていく(いける)人だから10年間繁盛し、たくさんのファンの方々ができ、信頼関係を築くことができるんですよね。
それゆえに松江で新たにお店を開くストーリーが生まれてきたんだなと思います。これまでやってきたこと、その積み重ねがすべて点で繋がっていくような。ある日突然人生に良いことが起きるなんてないんですよね。純子さんからこの話を聞いたとき、僕はとてもポジティブに受け取りました。新しい紬麦をこれからもファンとして応援していきます。
料理人の仕事と家族のこれから
うちの息子の中学進学とそれ以降については何年も前から妻と日常的にたくさん話し合ってきました。移住当初は自分たちの仕事と暮らしを最適な状態まで立ち上げることをなによりも優先してきました。息子は今春小学6年生に。今一度、自分たちの現在地について明るく見つめ直しています。「どこの中学校がいいのかな?」「料理人としてこれからどうやっていく?」「家族としてこれからどんな風に暮らしていく?」僕はいつもそんな話をしています。
数年前に長野県にいくつか僕たちのイメージに合う中学校を見つけることができました。(入学できるできないという話は全く別です。)息子も肯定的だったこともあり、長野に向かうべく準備を家族で進めていきます。僕は基本島根で仕事をするので「母子のみ移住」ですが、決してネガティブな関係ではないことをここでお伝えしておきますね。苦笑
蔵庭で料理人として働くことについては彼女も一旦やり切ったんだと思いますし、そういう話を聞いて僕も納得、理解しています。「まあ、よくやったよね。。」と彼女を祝福したい気持ちです。
僕がいうのもなんですが、蔵庭でやっているメニューは本当に仕込みから手間がかかるものばかりです。調味料や原材料はできるだけよいと思えるもの、それを丁寧に時間をかけて作っていく。大きな利益にはならないけど、当初からそれが彼女がやりたいことでしたし、スタイルは一貫しています。どうにかここまで続けることができました。
彼女のメニューを喜んでくださる方はやはり多く、精一杯やり切った今は悔いなんてないだろうなと純子さん同様に見ていて感じます。今いるスタッフ女子たちとの相性はとても良く、みんなそれぞれの人柄がカフェの雰囲気をつくってきました。長い間スタッフとして働いてくれた彼女たちにもありがとうねと感謝の気持ちでいっぱい。心からそう思っています。
望さんは長野に移ってからすぐに料理のことをやろうとは考えていないようですが料理人という仕事をやめるわけではないようなので、これからの彼女の活動も楽しみにしていてください。妻がなにをやるにしても僕はきっとサポートしていくと思います。
ついでに僕の話も
僕よりはるかに若い方々と一緒に仕事をする機会は多々ありますが、いつも心の中で絶対負けないからなんて思っていて、これはもはやジジィですよね。
そんな自分の年齢や激しい時代の変化を常に感じていますし、それなりの危機感を持って仕事をしています。クリエイター業で生計を立てる身として現状に満足せず、初心と向上心を忘れずやっていきたいと思っています。来年度の島根での仕事も多く決まっており、お世話になっている取引先の方々とはこれからもお付き合いさせていただきながらその一方で自分のクリエイティブ活動の幅を広げるための長野展開も実践し、またゼロから事業開拓していく所存です。
今や僕にとって島根、特に江津は公私ともに第二の故郷であることは間違いありません。なにより僕の人生を本当に良くしてくれたのは島根全域にいる仕事仲間たちでした。彼らと出会って一緒に仕事をしたいと思い、そうなったことで島根移住最高と胸を張って言えるのは僕の生涯の財産であり誇りです。
蔵庭に関して言えば、僕たちの想いを受け取りながら店舗デザインを監修してくれたSUKIMONOは今や島根を代表するほどの個性を感じさせるアーキテクチャ&ものづくりカンパニーとなっていますし、ターンしたばかりの僕らを即時全力でフォローしてくださった江津市の無川さんは政策企画課で変わらずに活躍されています。
今振り返っても完璧だと思えるタイミングで蔵庭を開業でき、かつ僕自身の仕事がつくれたのはこの10年間の島根での人間関係がすべてであることに加え、いくつもの運が交差したからに他ならないと思っています。自分の力だなんてことは決してありえません。
本当にありがとうございました。そしてこの先もどうぞよろしくお願いします。
東京〜島根〜新たな土地で過ごすというそれ自体が息子にとってもおもしろいポートフォリオになるだろうと楽観的に思っていますが、これからも「こうしなければならない」という固定概念のシバりからできるだけ解放されて生きていこう、これが我が家のアイデンティティなのだと考えています。
お知らせは以上です。
この記事を読んでくださったみなさまと、紬麦、蔵庭にとって有意義で、実りのある一年になりますように。
本年もその日まで、蔵庭をどうぞよろしくお願いいたします。
2025年1月吉日
蔵庭(合同会社Adot)
戸田 耕一郎